土曜から火曜

<土曜日>

或る場所でイニシエーションのような一夜を過ごす。
波間を漂いながら一度自分のすべてが心身から抜け落ちて、意識が戻ると20時間くらい経っており、生まれ変わったような感覚を久しぶりに味わった。
朝食と、生きることが、こんなにも密接に感じられたのも久しぶりだった。


<日曜日>

夕方から写真展搬入。セットアップが比較的大仰なので、せっせと手を動かし、椅子によじ上って展示作業をしていた。
終わって気付けば10時。同じく参加者のYさんと食事して家まで送って、徹夜明けだったので泥のように眠る。
…と思ったら、やはり2時間半で覚醒。その後は朝まで眠れずに過ごす。


<月曜日>

昼間、道内の環境活動をサポートする団体の事務局にお邪魔して、自分の企画を説明させていただいた。団体の活動内容も伺い、やりとりの中で、自分の活動するエリアの先には、勇払だけでなく、同じく樽前山の水の恩恵下にある白老があることにふと気付かされた。

白老には、2年前の夏に赴き、奇妙な友人と、奇妙な時間を過ごした想い出がある。その日、街は霧に覆われたように灰色の柔らかな光に満たされ、草木の緑は、街の空間に溶け出してしまいそうなほどぼんやりとして、言いようのない心地よさを感じた。其処では明らかに日本的ではないなにかが、空気や空間を司っている。そしてそれこそが、北海道のネイティブの気配なのではないかと感じながら、出会うはずのない場所で、出会うはずのない女性と対話をしていた。

夜、やはりものごとは繋がっているのではないかと感じる。写真展のオープニングパーティでアイヌのトンコリの演奏に遭遇し、目を閉じて音に意識を手向けていると、風にそよぐ葦や低木の生い茂る原野のイメージが広がり、自意識がふと消え失せて心地よい音の波間を漂う感覚を味わうことができた。演奏の後に「いつかステージを用意してご連絡します」と伝えたところ、「きっまた会うことになるだろうね」という嬉しい言葉をいただく。
民族を掲げて戦うことを力強く表明していても、彼の言葉や振る舞いは非常にしなやかだ。生来戦いを課されていない僕らが恣意的に戦う言葉を選ぶと、必ずその言説は矛盾を孕み、強張ってしまう。だから僕は戦わずして人の心を動かす方法を、数年に渡り探している。


<火曜日>

ここ数日世間を湧かせている、村上春樹のイスラエルでのスピーチには感動を覚えた。「世界の終わり」に著された空間認識や意志の在り方を、彼は今でも確かな軸足として活動しているのだろう。弱さのための小説ではなく、弱き者が内なる強さを獲得するために書いているとしたら、彼の近作への違和感は棄ててもいいと思えるようになってきた。
しかし彼のイスラエル訪問に関してのニュース放送は、訪問に異を唱える意見を押し切って彼がイスラエルに赴いたことばかりが強調されていた。これは彼の唱えた本質を見事に裏切っており、あらためてメディアに失望せざるをえなかった。朝のテレビニュースの忙しない時間軸というのは、インターネットが普及した今、本当にもう不要なものだという気がしてくる。

夕方、アートイベントをともに運営するTさんからFAXが届いていた。企画を捉える気持ちの深さ、そして熱さと力強さ。すべてに心が打たれ、その日自分にトラブルが起きていたこともあって、胸に込み上げるものがあった。続いて在京メンバーからも電話。東京にもあらたな熱源が生まれつつあり、これらの熱をしっかりと受け止めて今後の活動に繋げたいという想いを新たにする。

あらたな活動のため、この2年間の業務を支えてきたデジタル機材を手放した。数百もの仕事や作品撮影の日々をこのキャノンとともに過ごしており、さすがに名残惜しかったけれど、いずれにしても近々に入れ替える予定の機材でもあった。お世話になっている中古カメラ屋のY氏は、いつもこちらの事情は全部分かっているという態度で相談に応じてくれる。東京の自主映画時代には百合が丘にそういうカメラ屋があった。ものづくりの父のような存在が、確かにここにもいると思った。
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by akiyoshi0511 | 2009-02-17 20:47 | monologue

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