東京を掠める

一昨日の夕方、急遽羽田経由で静岡へ向かい、今まで乗っていた車と引き換えに、小さなワーゲンを受け取った。薄暮の闇の撮影のための車との出会いは、薄暮の時間帯。そして偶然ながら車体色も藍色。
その後、すぐに東京方面に移動を開始したが、ナビのない車なのですっかり道に迷ってしまい、横浜でUさんに会う時間がなくなってしまった。代わりに電話で少し話をしたが、やはり会って、もっと話したかった。

深夜0時に新丸子に到着。Mさんのスタジオを訪ねて、プリントを見せる。彼が反応した一枚が、この新しいシリーズを切り拓いた一枚だったので、そのプリントを手渡した。彼の紡ぐ音も、これまでより遥かに立体感を増していた。短時間の訪問だったが、内容の濃い話をした。自分の写真と彼の音楽で、また何か模索することになるだろう。
午前3時に新丸子を出発し、眠らずにアクアラインを抜けて水戸方面へ。結局、東京は行きの電車で蒲田を通過しただけで、帰途は多摩川まで来ていながら、東京側に立ち入ることはなかった。時間さえあれば会いたかった人が、川向こうにまだ何人かいる。次は一体いつ来ることができるのだろう。

水曜の午前中に大洗のフェリーターミナルまで移動。いつも、通過するだけで撮影をしたことはないが、茨城の海岸線の防風林や里山は印象に残る。もしもここで長く暮らしながら執念深く見続けてゆけば、例えば高く伸びた竹や、松林の陰に何かを見いだせるのかもしれない。ただ、自分は当分これら「内地の」光景と向き合うことはないだろう。生涯ないとは言い切れないが、もしかしたらないのかもしれない。

・・・

大部屋の客室で目覚め、浴室の洗面所で身繕いをして、甲板に出る。外気はほどよく引き締まり、海の上にいるにも関わらず空気は乾いているように感じる。ちょうど本州の低気圧を抜け、北国の気候へ立ち入るところのようだった。ガラム(…遂に煙草を替えた)を吸っていると日が射してきたので、光の当たる場所に立った。雲は高く、太陽も遠く感じる。本州から北海道への帰途の船の上で浴びる光は、ささやかな解放感を与えてくれる。
船旅ではいつも「トニオ・クレーゲル」のことを考える。トーマス・マンの人生と自分の人生を比較するなど馬鹿げているのは分かっている。それでも、ふと考えてしまう。

ごく最近になって、やっと、たったひとつの「技芸」を得た確信がある。それは皮肉にも、写真という装置を光の曲芸を捉えるために用いず、闇を炙り出すために用いる試みだった。

苫小牧港に着岸するまでずっと、ボードリヤールの「なぜ、すべてがすでに消滅しなかったのか」を読み返していた。この本は今年に入ってから、何度か精読している。思えば二十代の半ばに幾度も読み返した西井一夫の本は「なぜ、未だプロボークなのか」だった。
異なる次元で「なぜ、〜なのか」と問う二冊に、因縁を感じなくもない。

帰ってきて、「10ミニッツ・オールダー」のカウリスマキ監督の短篇を観る。東京に棲んでいても北海道に戻って以後も、カウリスマキ作品に流れる時間の心地よさは変わらない。
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by akiyoshi0511 | 2010-06-25 02:01 | monologue

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