「#2」 撮影開始

新作の撮影を再開した。MR山の撮影は、やはり先のIS山との光線条件の違いや、季節の変化に悩まされている。撮影をはじめてまだ2回なので、それほど焦る必要もないのだろうが、時間が限られていることも確か。
続くMW山が、観光道路の工事の関係で予定していた撮影ができなくなったことも焦りの遠因となっているが、今はひとまずMW山のことは考えず、「本来のMW山」であるMR山の撮影のことを考えよう。
先日の撮影後に道を間違えてしまい焦ったが、市街地の片隅にある山であり、羆の心配もないので、夏の今は多少無理をして迷うことになっても大きな事故には至らないはず。

この「闇のシリーズ」においては、ぶれても良い要素と、ぶれるとまずい要素がある。ひとまず札幌市周辺で先住民の文化と倭人の文化(あるいは近代文明)の衝突が見られた場所であれば、ロケーションの選定とその撮影順序は柔軟に考えてもいい。
しかしその分、一度撮影をはじめた場所については視点を明確にした上でひとまず単一のシリーズとして集中して取り組み、各シリーズごとに単独の発表に耐え得るものにしなければならない。
このシリーズの本質を複数のNo.から抽出するかたちで提示できるのは、最低でも3〜5カ所のロケーションを撮り終えてからとなる。

映画祭を終え、制作仕事も再開したので、平日のうち3日間は9時から5時まで仕事、5時頃から入山という妙に規則正しい生活が始まっている。
それ以外の2日間はこれまで通りイレギュラーとなるが、ほぼ毎日、時間を作って撮影には赴く。

・・・

休憩時間に、クレジオの「砂漠」を読み始めた。映画祭直前に買って読むのを楽しみにしていて、まだ一度もページを開いていなかった。
冒頭の数ページを読んでみて、やはり一気に引き込まれた。中期以降のクレジオの情景描写はなぜこんなにも想像力に富み、力強いのだろう。おそらくその理由は文章の成熟だけではなく、灼熱の場所への、そして砂漠の民への激情とも言うべきものがそこに込められているからではないか。
クレジオのように、西欧の文脈を冷徹に見据え、西欧と異なる文化に正当な愛情や激情を注げる精神を身につけるのは簡単なことではない。文化への「愛情」という意味では、もしかしたらレヴィ・ストロースよりも遥かに暖かみのある思想がそこにはあるのかもしれない。

差異を見定めた上で、クレオールな文化を標榜すること。それは、宿命と経験と知性のすべてが備わっていなくてはなし得ないことなのだろう。だからこそ僕はクレジオの作品に関しては、心を開いて「受け手」となることができる。
「偶然」や「アンゴリ・マーラ」で開かれた回路は、少なくとも僕にとっては生涯信じるに能うものなのだ。そういう風に読ませてくれる(現代の)作家は実は少ないのではないか。
それは僕にはもちろん不可能な視線だ。だからこそ、せめてこの日本に生きながら(生き存えながら)、「自国」と言う陳腐な枠組みを超越した次元へとアクセスする視線をいつか(写真で)実現したい、と思っている。
最近までそれは到底不可能な視線だと思っていた(日本の近代以後を掘り起こす限りにおいて、西欧を追従した喜劇性が常に付きまとうと思っていた)…が、北海道に戻って3年が経った今、そうは思っていない。それは未だ完全な形では実現せずとも、決して不可能な視線ではないのだと。

少なくともこの北海道には、日本以外の文化の痕跡がある。大地に刻まれた痕跡や名前を手掛かりに、「写真特有のなにか」を用いて、原初の時間を蘇らせるためのコードを導き出すことができないだろうか。
もちろんそれは、必ずしも北海道だけで行われるものではないのだが、少なくとも自分はこの場所に縛られる身であるということは、必然的にそういうことであり、手掛かりが眼前にある以上、無理にそれ以上の自由を求める必要もないと思っている。
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by akiyoshi0511 | 2010-07-06 01:58 | monologue

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