2012.12.15

久しぶりに短期間で本を買い漁った。先日の日記にも書いたカミュの「ペスト」や、トマス・ピンチョンの「ヴァインランド」(新訳)、それにミシェル・ウエルベックの「プラットフォーム」と「闘争領域の拡大」。加えて純粋に写真論の本でデイヴィッド・ベイドの「写真のキーコンセプト」。あとは近所の古本屋でオースターの未読の長編数冊にブコウスキーの短編集を一冊、そしてトーマス・マンの全集から「魔の山」上下巻(100円コーナーにあった)。だいたいそんなところだと思う。これだけ一息に揃えると、久しぶりに本で散財した感じがする。でも中古で取り寄せたものもあるので、金額はそうでもない。

まともな文学に現実を忘れて浸かっている時間というものは、僕にとって人生で最もまともな時間なのだけれど、30代に入ってから国内作家で読みたいと思えるものがまったく見つからず(写真論や美術論、あるいは全然面白いと思えないけどがんばって読むしかない東西の思想書を、背伸びして解読している間に、いつの間にか純文学も例の「J文学」もジャンルとして消滅していた上に、ケータイ小説とかライトノベルと言う名の、少なくともその一部は掃き溜めレベルとしか思えないジャンルが書店の国内文学コーナーを占拠していて、90年代末までにデビューしている作家を除けば、誰がまともな作家なのか全く分からなくなってしまった)、しばらく小説から遠ざかっていた。

春にフリーランスに戻って、初夏まで業務の体制づくりと写真家活動の方で忙しく、盛夏から晩秋は仕事がどんどん動いて、それらにひとまず全力で立ち向かうことに注力していた。また、その時期は北海道の最高のオンシーズンでもあったので、少しでも時間があればロケハンという名のピクニックや、夜釣りに出かけたりしていて、読書と言えば先ほど書いたように、がんばって一日数ページのペースで読み進める思想書の類いくらいだった(実際はもう少し読んでいると思う。たとえば思い付きで暇つぶしに川上未映子を買ってみて、好きになって一通りの著作を読んだりはした)。

11月、唐突に雪が降りはじめて、空いた時間も外に出ることが少なくなり、仕事の量もほどほどになってきたので、心身の調子(リズム)を取り戻すために酒を飲むようになり、目と頭が疲れるタイプの本ばかりではなく、小説もまた読みたいと思うようになったのだけど、読みたい作家が見当たらなかった。それでひとまず、以前から暇潰し的に読んでいたオースターの未読の本や新刊(「ブルックリン・フォリーズ」は内容も装丁も本当に愛おしいと思える素敵な本だった)、ウエルベックのマニアックな初期作品(最新作の「ある島の可能性」はこの10年で出色の長編小説だと思う。少なくとも僕の中では、これを超えるものに暫く出逢えそうにない)、そしてやっと以前から欲しかった、とりあえず退屈することはなく、しかもその長大さ故にしばらく読破できなさそうなトマス・ピンチョンに手を出した次第(この新訳シリーズの装丁が秀逸なのは言うまでもない)。トマス・ピンチョンは年末年始の楽しみとして取っておいたのだけど、有り難いことに今年も年末年始は駆け込みの案件などで休暇はなく、どうやら毎晩少しずつ読んで行くことになりそう。

購入した作家はほとんどが、既に何作かを読んだことのある既知の(あるいは全て既読の)作家だけれど、トマス・ピンチョンは実ははじめて触れる。僕は文学を体系的に学んできた訳ではないので、ピンチョンの作品が文学史のどのカテゴリに入るのか(ポストモダン文学の異端者ということくらいしか)分からず、どの程度の文学的価値があるのかも分からない。でもとにかく以前から、その文体や粗筋になんとなく惹かれていて、いつか時間ができたらしっかり読んでみようという意思だけは持っていた。この歳になると、もう文学的・歴史的価値がどうかなんて、ほとんど気にならなくなるというか、急に人生も折り返し地点という気がしていて、そんなことに捕われていないで読みたいものを読んでいこうじゃないか、という開き直りもある。ついでに言えば、僕にとって小説はもともと、映像演出や写真のための「資料」でもある。絵を描けない僕は、イメージを構築するために主に言葉(…と、謎の図面)を使う。だから、言葉が枯れ果てていると、映像仕事が進まない。

そんな具合で僕は「趣味半分、仕事半分」の読書に復帰した。大抵、一日の作業を終えて布団に潜り込んでから本を読むので、不眠からも少しは解放されるんじゃないか。それにこの年末年始も例年通り、(映像の)編集仕事が多いので、どうせほとんど部屋に軟禁状態なのだ。レンダリング時間という名のアイドリング時間を、少しは有効に、楽しく過ごす年末年始にしたい。
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by akiyoshi0511 | 2012-12-15 22:13 | monologue

映像作家・写真家 北川陽稔 http://www.akiyoshikitagawa.com/


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