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大地の標本

札幌を出る前日に、ベルンハルト・エドマイヤーの写真集を購入した。写真そのものも、その編纂も見事で、独自の、かつ普遍的な体系を有し、凝視することと考察することをこれほどまでに完璧に織り上げた例は少ない。20世紀に君臨する「地上の」ベッヒャーに対し、21世紀序盤に現れた「空の」エドマイヤー…。そう表現して差し支えないほど、この写真家が現れた意義は大きいと思われる。

「地球全土」という「標本のための最大規模の器」から、固有の特性や視覚効果を有するランドスケープを選び出し、地質学の体系で構成する。現前するものは、我々の陳腐な営みを軽々と凌駕する地球の強かな有りようである。人類への警鐘というような人間本位の意味づけは、これらの暴力的な美の前では不要だろう。そこでは「人間以前と人間以後の地球」が垣間見え、我々人この地球を荒し回っていることさえ、地球の歴史の中ではほんの一瞬の出来事に過ぎないことを感じさせられる(そして、そのことに安堵を禁じ得ない)。

この視線は鳥の目でも神の目でもなく、大地の怒りでも、まして生命の讃歌などでもない。そこにあるのは、ただただ「何があろうと存在し続ける」大地そのものの根本的な、強靭な論理である。しかもこれは、人間がその場に立ち、肌で感じるこさえできないほど暴力的で不毛な論理だ。人間の営巣を許さない領域こそが、もっとも地球の原型に近い、大地そのものの生命力をたたえた領域でもある、ということだ。

おそろしい写真、その一言に尽きる。これはは間違いなく、他の写真家にとって100%追随不可能な取り組みでもある。
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by akiyoshi0511 | 2008-06-29 11:29 | monologue

Visual Activities

今週は2本の映像仕事と6件の写真の現場という、やや非現実的な日程をこなしています。

さて、標題の名称の話ですが、あたらに自己の基幹となる集団を運営してゆくことになりました。
前の団体を離脱を決めた時点ではなにも予定していなかったけれど、それを機に錘が落ちたように感覚が開かれ、必要な手続きをすらすらと思い描けた次第です。映画専業からの転業を経て2年余、気付けば、バラバラと掻き集めてきた写真分野の業務経験も作品も、一応の量と質に至っており、また自己の方向性も再び明確になってきたのでしょう。

そこで早急に(商業的な)成功を収めるとか、そういう類いの趣旨ではないかもしれませんが、少なくとも制作という営為の根本における姿勢を共有できる人々と、長期的な視野に立って共に行動してゆける枠組みにはなると思います。単独行動ではそれと名付けえない問題意識を、ひとつの組織に象徴として盛り込み活動を促進する、というものであり、クライアントが想定される作業においても、グループで取り組むことでクオリティを上げられることでしょう。既に実質的な1本目の仕事が走っていますが、想定以上の効果でもあります。所謂ユニットとしての分業、これは久しぶりでもあり、懐かしくも新鮮です。

今回の立ち上げにあたり、声を掛けさせていただいた諸氏のほぼ全員が違和感なく参加を快諾してくれたことに、まずは本当に感謝したいと思います。近年何となく行動をともにしてきた人、フォトグラファー仲間、映画制作の仲間、参加メンバーの繋がりは様々であり、自分を起点に考えれば繋がりの集約の場でもあるという感じです。ここまで重ねた時間において、あるいは交わしてきた言葉において、真に信頼し合える人々が集いました。

クリエイターというのは、作品なり発言なりを社会の某かの側面に位置づけてはじめてクリエイターと呼ばれます。自分も紆余曲折しながら既に10年に渡り、さまざまな仕事や作品制作に関わってきましたが、業務と私的な制作活動の両面の経験をすべて注ぎ込み、あらたに方向付けられた今後に活かしたいと思っています。

上記プロジェクトのホームページは現在参加デザイナーとの共同作業で準備中。
アップ次第ここで告知致します。
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by akiyoshi0511 | 2008-06-26 10:12 | dialogue

夜の飛行船

昨夜、仕事のあとのドライブで石狩湾の港に停泊する飛行船に遭遇しました。闇の中に光芒を放つその姿は、遠い事物や叶わぬ思いを想起させますが、少なくとも制作者としての自分はその光の呼び起こす感興に酔うではなく、もっと積極的かつ懐疑的であり続けるべきだなと感じたわけです。
「トニオ・クレーゲル」の文庫本をいつもバックに忍ばせていた25歳の映画青年も既に30歳を迎え、そろそろ世界と自己との距離を再定義している、というところかもしれません。そうでなくては、進歩がないということになってしまいます。

僕が10代だった頃、今回の秋葉原のような事件は想像はできても、少なくとも同世代の誰一人その行いに手放しで共感しませんでした。それが今や同世代の若者に共鳴すら許してしまう。ここまで人間の疎外感が顕在化され、かつそれが常識と化してしまった世界…そしてその疎外感とはまったく遠いところで(本当はこちらこそがバーチャルな事態なのですが)、戦争や紛争等、「大きな物語」が間断なく紡がれ続けてしまう救いようのない事態が、現実としてあります。
メディアの悪意も手伝い、ほとんど揺るぎないまでに組み上げられてしまった「個人」と「世界」との断絶。今やいかなる個人の言説も行動も情報の渦の中に吸収されてしまい、数量や時間の尺度さえ無意味化されています。一日で何千人が殺されたという事実と、何分で何人が殺されたという事実に、ほとんど実感の違いが見られない、というような感覚の麻痺が起きているように感じられます。しかし、そのように感じさせられている状態そのものに対し、本来私たちは懐疑的でなければならないのです。

地球に刻まれた巨きな傷と、己の体に刻まれた小さな傷を混同しないこと。そして同時に体に刻まれた小さな傷は、地球規模の悲しみへと繋がってもいるのだということ、その意識にこそ信じるに能うものが含まれているのだということを見失わずにいたいと思います。痛みの実感をなくして大きな尺度にばかり拘り出すと、人間は必ず、ある種の傲慢に突き動かされるようになります。反対に自己の傷にばかり拘泥すれば、秋葉原で無差別殺人を実行した青年のようになり兼ねないのです。

断絶や疎外を認めるのは容易いですが、その感触に閉じこもるのではなく、他者や世界との対話を求める姿勢というのは失わずにいるべきと考えます。それは社会の要請や自己の社会性について考える以前の、人間として必要な最少の良心です。

・・・

来週は自室にこもって新しいプロジェクトの準備と、連絡作業に追われそうです。たまたまですが数日前、疎遠になっていた映画関係の友人からも連絡があって、よほどそれが(友として)嬉しかったのか、夢の中で夜行電車で東京に向かおうとしていました。いろいろなものに愛情を感じながら生きる姿勢を、久しぶりに思い出した気がし、他者に愛おしさを喚起させる力を持つその友人は、それだけでこの世に存在する価値があるように感じました。
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by akiyoshi0511 | 2008-06-14 13:11 | dialogue

霽れの日

祖父のときもそうだったのですが、祖母を見送った日も空は見事に晴れていました。91歳の大往生で、最後は認知症が進んでいたこともあり、とても静かに息を引き取った祖母。その表情はまるで晴れた空に浮かぶ綿雲のように柔らかく、また、少しだけ寂しそうでもありました。
自分も多少歳を重ねたせいか、葬儀の数日の中で故人との別れを、冷静に、しかし心に澱みなく噛み締めていた気がします。



北海道の撮影に関しては、六ツ切りのテストプリントがやっと15枚を超えたところ。これまでも限定してきた光線条件はさらに絞り込むことにし、撮影回数や稼働時間が減る分、テンポを速めようと思っている。そのため4×5のフィルムに加えて、一連の決着がついてからと思っていた中判ポジでの撮影も再開することにしました。
最終的なカット数もそれなりの数になるかもしれない。あるいはまた、当初の態勢に戻すかもしれない。大切なのはどの段階で「過不足なし」と判断できるかだと思っています。

いずれにしてもこのシリーズでは最後まで一貫して、ネガフィルムは使わないつもりです。
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by akiyoshi0511 | 2008-06-05 13:53 | dialogue

北川陽稔のブログ http://www.akiyoshikitagawa.com/


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