人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ある午睡の、約20年後

1月30日、世界遺産・知床でホテルのワンフロアを演出するという、自分にとっては今までにない規模の試みが公開された。
これは仕事でもあり、作家活動でもある。初めて知床に滞在してから3年半でそれなりに機が熟し、幸運にも実を結んだもの。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000061045.html

そのタイミングに合わせて、個人のサイトを約10年ぶりに刷新した。
akiyoshikitagawa.com

このサイトのコーディングは仕事仲間の協力で成り立っている。ディティールに煩い私が組んだそこそこ面倒なデザインにも関わらず、それを1日で形にしてくれる才能が身近にいる。他にも、自分が集中するために他の案件を担ってくれるエディターがいる、仕事のスケジュールが崩れないように細々としたことまで支えてくれるマネージャーがいる。
周囲のエネルギーや活動時間を分けてもらって、私生活のタイトロープを持ち堪えながら、20年来の仕事の目標を叶えている。否、叶えさせてもらっている。このサイトに並んだサムネールを見るとそういうことを強く感じる。

サイトの刷新と同時に、この旧式のブログは更新停止にすべきと悟りながら、ここにこびり着いている20年弱の足跡を、やはり簡単には棄てられない。なぜなら、ここで言葉を紡ぐ限りにおいて25歳の自分と45歳の自分は今も地続きになるから。そしてここには、既にかすかに「二世代の」記録が生じてもいるから..
関東のダム湖の管理道路でひぐらしの声を聴きながら昼寝した記憶は、当時のブログを読めばまるで昨日の出来事のようにプレイバックできるし、20年後の自分は根本的に往時とそれほど変わっていないように思えてくる。このログは幾重も折り重なる記憶の断片で、ああでもないこうでもない、あれもこれもの試行錯誤の記録でしかないが、日記というものは便利なもので、目を逸らしたい時期の記述は読み飛ばすこともできる。

日記のはじまりから約20年経って、映像も写真もやっと最小限納得の行くものを形にできたに過ぎない。今回刷新された個人のウェブサイトには、近年のマイルストーンが散りばめられているとは思う。こんなに美しいものを手掛けてきた…ではなく、作らせてもらったと感じる。そして、ウェブサイトに反映された履歴は文字通りここ数年の足跡だということ。つまり、大きな括りでは日記的なものだと。

あの短い路上の昼寝から覚めると、約20年が経っていた。
目覚めてみれば窓の外には雪が積もっていて、今夜から流氷を撮りに知床に向かう。

ある午睡の、約20年後_f0048583_08325455.jpg

Akiyoshi Kitagawa 2024




# by akiyoshi0511 | 2024-01-30 23:56

摂理の外側

弊社で制作した北海道スペースポート(HOSPO)の撮影素材が使用されたBS番組がYoutubeにてアーカイブ放映中です。
1時間5分あたりから、該当のシーンが始まります。

北海道の自然・自然科学と向き合う映像制作をいろいろと担当させていただく中で、このHOSPOは自分の中で特異点かつ興味深いステージ。地球上の諸生物は言わずもがな地球環境(大気・土壌・水)の中で種の存続を模索しています。中でも、地球の資源を濫用しながら高度な物質文明を築いてきた私たちは、必然的に、地球環境との間で持続的な産業や経済、社会の仕組みを考えていく宿命をも負います。
その上でリアルな生活に目を向ければ、北海道の経済基盤として農林水産の一次産業や、自然環境、それらを内包する観光の視点は最重要で、自分の仕事の多くもそれらに紐付いています。基本的には、これらの資源・資産を損なわないように注意深く、経済の波に乗せていくのが現状の最適解ということにはなります。

一方で、広大な土地の活用方法としてスペースポート事業や宇宙産業が実践されることは、北海道が人類の存続を模索するうえで重要な場になっていくことを示唆します。
世界的にも恵まれた北海道の自然を未来に繋ぐためには、土地や資源を外資に切り売りして延命するのではなく、ネットワークやテクノロジーによって大きく変化しはじめた市場経済と向き合うロジックも必要。

そういった視点を加味すると、地球上の資源を争うのではなく、重力の外側に市場を拓く宇宙産業には可能性を感じます。
民間の宇宙産業によって戦争がなくなるわけではないという矛盾はありますが、それでも信じたいと思わせる一定の説得力があるということです。

●番組本編はこちら

●私が監督・撮影した北海道スペポースポートのPV(2021年制作)






# by akiyoshi0511 | 2023-04-15 06:39

2023.1.1

20223年元旦。

大晦日は22時頃まで制作をして、その後は少し酒を飲んで放心していた。いつ年が変わったのかもわからないし、目が覚めたら既に元旦の10時。
途中、いま遠くの街にいる2歳の長女の夢を見たのは覚えているが、吉夢なのか凶夢なのか。忙しない展開だったことを除いて内容はほとんど覚えていない。

ぼんやりしたままルーティン通りトーストを焼いてコーヒーを淹れる。この豆をくれた人とは今年仕事をすることはあるのだろうか?などとあまり意味のない心配をした。コーヒーを啜りながらふとアマプラを開いてしまって怠惰な元旦だなと思いかけた時、何かが耳に引っかかった。

スタジオの裏の雑木林で鳥たちの大合唱が響いていた。この場所に越してきて3年と少し、過去に覚えのない祝祭のさえずりの渦。それはほとんど滝のように激しい共鳴だった。
それをひとまず携帯で撮ってから、手元にあったR3と200ミリレンズで観察する。ヤドリギの実を無心で食べるヒヨドリたちに混じって、アカゲラが木を突いているのが見えた。アマプラで始まりかけた元旦は期せずして、なかなか贅沢な祝祭の朝に変わる。

日常と非日常、惰性と覚醒、自己と環境、家庭と仕事..それぞれ今年はどんな年になるだろう。
いずれにしてもすべてが試される一年がはじまったのだと、静かに覚悟を決めて仕事に戻る。

# by akiyoshi0511 | 2023-01-01 14:39

Invisible Red

年明け1月末から、札幌芸術の森美術館の企画展に出展します。

展示としては約2年ぶり、そして写真ベースの新作展としては6年が経っています。個展ではないものの、自分でも俄には信じられないブランクの長さ。
この間、新しい作品を作ることを忘れていたわけではないし、諦めていたわけでもない。端的に、納得のいくものになるまで6年かかったというところです。
もちろん、30代とは比較にならないほど仕事も私事も忙しないので、それなりに環境的な要因もあるのですが。

今回は少なくとも自分にとっては、過去のラインナップとは異なる文脈の写真作品であり、幾つもの試作の末に、ここ数年でやりたかったことを詰め込んでいます。
列記すれば、異なる波長域のダブルイメージ、森で感じるサラウンドと多視点性の画像化、フラクタル的な樹状構造の描出、人間の知覚を対象の知覚でカットオフすること..
実はこれは友人の写真家に送ったメッセージの一部で、走り書きですが必要な切り口は網羅されているように思います。

北海道で活動する8人の作家が参加する展覧会のリンクと、イメージを一枚貼り付けておきます。作品のタイトルは「Invisible Red」で、写真と、関連インスタレーションを出展します。
前作から6年を経た新作ですのでそれなりの背景があるのですが、ひとまず今は情報はこれくらいにしておきます。展示が始まってから、ブログやそれ以外の場所でこのシリーズに至るまでの思考を晒してみる予定です。

展覧会情報「札幌美術展 昨日の名残 明日の気配」

Invisible Red_f0048583_00273693.jpg



# by akiyoshi0511 | 2022-12-29 00:40

重力と光

人間の可視光線の外部を捉え、擬人化ではない解析の仕方で人間を逆照射しようと試みる。
その心は「地球環境を考えたいなら人類が消えるべき」というアポリアに対するアイロニーなのかもしれない。

重力と光_f0048583_23040445.jpg

# by akiyoshi0511 | 2021-10-02 23:08